野球場の夢
服部 剛
令和三年・一月三日
三が日の間に息子孝行しようと思い
周の小さな手を引いて
川沿いの道をずんずん、歩く
野球場の芝生を
解放していたので
そのまま手を引いて
ずんずん、入ってゆく
たたたっと走り出す
少女の手から、糸を引く
飛行機型の凧は揚がり
少年はサッカーボールを蹴り
父親と青年はキャッチボールをして
グローブで球を取る、乾いた音が
正月の青い空に響いた
――羨ましいなぁ
九才で言語を知らない周の
パパである僕は声もなく、呟く
正月の野球場は
無数の家族に彩られ
二度目の緊急事態宣言を待つニッポンの
霞がかった平和な午後の賑わいに
コロナ禍さえも夢のよう
かたん!
パパの手を解いた、周が
ひと握りの勇気を出して
誰かが掘った穴に架かる
板のまん中に乗って、よたっと
一メートル先のフェンスの網に、掴まった
(ときめく目線の先に
女の子の微笑みが横切っていった…)
周よ、パパはな
お前とキャッチボールをするのが
夢であるが
それがずーっと先の
明日であってもかまわない
もし、パパの夢が叶わなくとも
お前は世界にたった一人の我が子だから
家に帰ったら、ママに宣言しよう
今年の目標
『〇・一秒のコミュニケーション』
パパとママと周が歩む
かけがえない日々の
キャッチボール