便
津煙保存
*
不思議だ
のたうつ腸
肉眼では見えない 誰も見ることができない
便意を催し、便意そのものを隠す。無表情を装うとも耐えきれず、半笑いと泣きべそと怒りの滲む面をぶら下げては小走りに突き進み、こわばる股を気にしながらさまよう。
そして海原の果て、草原に屹立する白亜の直方体。ドアのノブに手を掛けドアを開け錠を掛ける。
ベルトを緩めパンツをずらす、
腰を下ろす、
気張る、 捻り出す、
踏ん張る、
堪える唸る、
自ら己を隔離すべく遂行した、閉ざされた絶対にあり全集中する。
何を逃れる何を望む。臍を中心に体が屈服するように前傾に折れ曲がる。便が望んでいる、便が叫んでいる、便が夢を見ている、便が腸を道連れにして脱出したがっている、便が堪えている、便が見られたがっている、便が祈っている、便が浣腸する、便が尻を叩く、便が尻に愛嘸する、便が肛門を押し開き突き刺してくる、便が首をもたげ頭を反らし歌い始める、大激臭とともに一発の爆砲を上げ、鼻濁半濁入り交じり喉を振り絞る。
心なしか悲愴なる、
腸内交響楽便 大57000腸回定期交便
」 独便無重奏曲大1穴ブアuさ'nブp, 「
ゆったり
極小空間をとろけさせ
………イク。
不可思議で間抜けな音色を放ち身を捩り、徐々に緩慢な回転が繰り返し繰り返し繰り返され、腸壁を這う、這う、這う、そしてとぐろを巻きながらついに飛び出す。
笑っている。
便は、笑う。
仰ぐ。そして、頷く。
禍々しい白熱の照射、その下の喜悦。
厳かにたぎるマグマの沸々と温やかな蒸気のなかで、見ている、私の肛門を、じっと見ている。
。
//閉ざ/される/
閉ざされ/もの/
閉ざし/た//閉ざ/たち/
。
祈る、猫を
悟る、雪は
、
。
「便学」
インスピレーションの泉、イマジネーションを支配する、至上の、唯一無二のクリエーター。
地獄のような痛み臭みを与え撒き散らしながら、同時に安楽へと逃れる術を授けてやろうと身を賭けて享受する実。
体への、苦痛への、大教授である。
便を振るい便を励まし、便解は与えず、詭便は切り捨てる。昼休みは自前の便当で済ます。
白紙答案は認めない。ネピアシリーズダブル、一巻き80m単位の各スーパーの棚の最前列に整然と陳列された、ほのかな香りを放つブチセレプ系、のみとする。
便をなすりつけこすりつけしっかり提出させる。便を大きく激しく、かつ強く濃くこびりつかせたなら便として称える。完全抜き打ちによる試験を繰り返し、無事にクリアできたなら修学とする。本年の卒論のテーマは「尻を拭く習慣について」である。
さまざまな国、民族、宗教、あるいは生き物たちや人間、森や川や土や沼地、落ち葉やどんぐりやバクテリアからクマムシまで。彼らがいかにして便を処理し、明日の健全な食物連鎖を保ち、役割を担っているのか、何を思い尻を拭くのか、拭かないか。記述し論じ、確かな情報と気づき、発見や仮定や推定をも含めプレゼンテーションせしめることができるか。
そして卒論の出来をすみずみまで確認し互いに議論し、日々傾けた便学により取得した全単位のうち、わずかでも受け落としてはいないかを見極め吟味し、修了とする。
肛門をくぐり元気よく流れ出た便から卒論ごと水に沈め、勢いよく送り出すのである。
ブルーレットから滲み出す毒毒しい青い水と激しい水圧に押され巻かれ巻き込みながらペーパーから剥離し、送り先である浄水場へと到達を果たし、分解と撹拌と浄水により再生を図り、各家庭や各スーパーなど。和洋や自動手動を問わず、すべての便器、排水管、下水道、下水管を巡り続ける。
最後に。
昨年卒業を果たした便徒たちの中で、本年度ノーベル便利学賞にノミネートされた者がいる。
皆も負けず、挫けず、長く冷たい旅路を行くことを覚悟し、精一杯汚してほしい。
○
「排便種々」
普通排便(futuu defecation
自然排便(omorasi defecation
速達排便(geri defecation
出前排便(Vber defecation
便乗排便(ture defecation
自動排便(ok! defecation
便前排便(kai@ben defecation
帝王排便(harakiri defecation
強制排便(kancho defecation
無痛排便(omukae defecation
夢遊排便( onetion
「便銀村」
枝の先にうんちを巻きつけて元気いっぱい走りまわるオンなのコもお巡りさんも火星人もすーぱーまんも博士もぐるぐるぐるぐるぐるぐる走りまわってきーんきんきんきんきんきーんてけてけてってっ天使もなまはげもこけしも水子も座敷童子も鬼太郎もねずみ男もぬりかべもきゅーちゃんもしんちゃんもふるちんで元気いっぱい走りまわりオンなのコの首は打ち上がりおひさんにかにかふたさんほうほけきょもりやまかわのとりいしきはなけものびしょうたちもはしりまわっていつまでもいつまでもくらくなるまではしりまわって
「便宜村」
量
だという
運
だという
「亻」
シンニユウセヨ、
シヨウカサセヨ、
ドウシヒキツ
、レ
ダツシユツハカ
、 レ
クサイ サダメ
フキ トバ
せ
○
「尻論」
数学や物理科学、化学式など。日常のなかですっかり触れる機会がなかったものたちが意識の上下左右、現れては消えていく。遠い昔に学んだ教科書の記憶からのようだ。玩具のようにして描き組み合わせてみる。そして自ら問に意識を集中させてみる。
あるいは憧憬や崇敬、それらに近いような感情を想起させうる何者かや創作物の類。人ならば俗にカリスマやヒーローやスターとされうるもの、創作物なら名画や名曲など。腸を絞りながら、痛みが収まるまではこうしたものたちで意識一杯満たしてみる。
防衛本能や死などと結びつく働きなのだろうか。
その一方、噴射への願望も働く。創造のビッグベン、苦痛の奥にある飛び道具、温存された最終手段、究極の働き、なのか。この体こそ未知だらけだ。
恥辱そのもののような腹の痛み。
複雑に折れ曲がり、粉々となった骨の残骸が突き破り剥き出しになろうと、ぱっくり開いた傷口から肉や血管や神経がさらされようと、顔を削がれ髪を歯を抜かれようと、秘匿恍惚、陰翳の果てからの眼差しは生半可な痛みからは生まれそうにない。
@
「痛みの子」
ここに宿る
私の幼子よ
遊び疲れたか
すやすや眠り
(いたい
いたい)
あどけない子
痛みの幼子よ
*