蕎麦ラプソディー
ブルース瀬戸内

蕎麦は空を見上げています
蕎麦は一年を振り返ります

良かったこと悪かったこと
価値基準を揺るがしたこと
明日が昨日みたいに思えて
前歩きが後ろ歩きみたいで
立体を平面で解説しながら
宇宙を歪に矮小化したこと
なんだか恥ずかしいのです
なんだか楽しくもあります

成長の途上にあるはずとか
未来の種まきを気取るとか
なんて浅ましいのだろうと
蕎麦は赤面してしまいます
精神的に真っ赤っ赤ですが
肉体的に蕎麦色を維持して
素知らぬ風体でいるのです

ツルツルっとすすろうとも
モグモグっと食べようとも
蕎麦は蕎麦でしかないとか
そんな次元では美学は廃れ
大いなる美学を打ち出せば
それはそれで美学は廃れて
点と点を慎重に繋ぐはずが
肥大化した点の陰に隠れて
妙に明日に不安を抱きます

揺らいだ価値にしがみつき
そよ風と強風を間違えても
アクロバティックに堪えて
何を守るかより守ることが
至上命題に浮上してきても
足を絡めて手を伸ばしては
蕎麦の限界を超えるのです

蕎麦は空を見上げています
蕎麦は一年を振り返ります

蕎麦であることの宿命こそ
蕎麦を超えることの条件で
蕎麦でいることの安堵こそ
自分以外を深く愛すことの
揺るがない条件なのかもと
思っていたりもしています

歪から解きほぐした宇宙の
美学に見向きもしない麺が
点から線そして線から麺に
不格好でも地に足を着けて
未来を捉えた喉ごしで転じ
誰かを喜ばすなら本望です

昨日の意味は明後日分かる
明後日の意味は来年分かる
だから早まらないでほしい
だから簡単に決めないでと
蕎麦はお願いしたいのです
あなたはもちろん自分にも
すすりながら聞いてほしい
噛んだりせず聞いてほしい
喉ごしにだって価値はある

ツルツルとモグモグの間に
答えはとっくに潜んでいて
形になるのを待っています


自由詩 蕎麦ラプソディー Copyright ブルース瀬戸内 2020-12-30 13:27:35
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