日記なんか書かない
こたきひろし

美しくて感度的な景色を見て脳に伝達し認識させるのは眼
どす黒くて汚いものを見てしまうのも眼だ

呼吸を繰り返しながら喉は言葉を声に変換し
個が他へと意志や感情を伝える

口は休みなく活動し
食べる 水分補給する 唾液を分泌して口内を殺菌し清潔を保つ
鼻は匂いを嗅ぎ分ける 呼吸の役目もする
皮膚もまた呼吸している

外部からの生命維持活動によって内蔵は命をはぐくむ

それらが空気みたいに
淀みのない川のように流れていれば
一応の健康は得られるに違いない

問題は病気だ
病気の果たす役割と目的は何だろう

生命が死に至る為の重要な役割を担っているのは確かだ

私は十七歳
冷静に論理的に生命ついて考えたかった
私は学校で人体模型を見せつけられながら
人間の幸福については何も考えられなかった

ある日
私は職員室に担任の教師から呼び出された
 こたきお前はいったいいつも何を思い考えてるんだ 先生にはお前が全く解らないんだ。
と切り出された
私はある種の問題を抱えた学生だったのだ
教育者として放置しておけなかったんだろう
 先生はお前に日記を毎日つけて欲しいんだよ それを先生に読ませてくれないかな
教師は何かを怖れている様子だった 最悪の結果を想像してそれを未然にふせぐ為かのように言った
教育者人生に汚点を残してはならないと考えたのだろうと
私は分析した

私はあっさりとその場は了解した
放課後だったからはやく家に帰りたかったからだ

こころの底では
 日記くらいで私の何が分かるんだよ!
と叫んでいた

だけど
日記が生命維持装置の役目も果たしてくそうな気にもなっていた

私は十七歳
意味もなく自死に憧れていた




自由詩 日記なんか書かない Copyright こたきひろし 2020-12-27 09:56:59
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