夕暮れシャッター
田中修子

赤い夕暮れがくると
鴉がぶつかってくるから
フェンスで囲われているマンションの
窓にさらに
夕暮れシャッターをおろして
すき間から覗いていると
数万の鴉が空を覆う

どこからやってくるのか
物心ついてから
疑わしくおもうひとは
わたしのほかこのマンションには
いないようなので
ずっと口をつぐんでいる

暗い部屋の
ボロボロのあしの七本ある椅子に
腰かける
月曜日、火曜日、水曜日……

数百冊のノートにうずまりながら
詩を書いている わたしの恋人はいつも
あした死んでしまう
いまはもう処方されない
致死量のある薬を
白い喉をさらけだして仰ぎ
飲みくだして倒れる

もう書かれることのない
ノートをひらく指はずいぶんと
乾いてしまった

鴉がシャッターにぶつかり
たたく音だけが
ひたすらに品のない雨のように
わたしの心臓をいまだ
うごめかせる

あしたもあさってもしあさってもそのさきも
わたしの恋人を埋葬しつづけ
間に合うように十分進ませてあるうちに
数十分数百分狂ってもう
何時かもわからない時計を眺め
夕暮れシャッターを下ろし続けるだろう

いつのまにか椅子の足は
八本になって
絡みつき
あるはずのない曜日になっていた

数万の鴉に覗き返される
すき間から覗く
長い歳月に濁っているわたしの
もう白くはない
白目

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某サイト投稿作品


自由詩 夕暮れシャッター Copyright 田中修子 2020-12-25 01:38:07
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