あの人
道草次郎

時々思う
精神が安定していれば
少しはましな文章がかけるだろうと
そしてこうも思う
でも精神が安定したら
書かないだろうと
精神が安定したら
一本映画をみたい
それから
中学3年の数学とできれば微分・積分の勉強をしたい
書くことが息みたいになってしまい
しないでいると
怖くなり書いてしまう
でも
ほんとうは
こうなのかも知れない
精神が安定しても
しなくても
マシなものなど書けないし
映画もみれないし
数学もできない
ぼくは気付いたらなにか悪い病気になって
どんな人でも一人は親戚にいる
若くしてよく分からず死んでしまったあの人になるのだと
ぼくはあの人のことを最近考える
あの人は
世界中至る所にいる
もちろんぼくも子供の頃
あの人に会ったことがある
あの人は
比較的若く
でもそう若くもなく
悪い病気になり死んだ
ぼくはそれを
父から聞き
線香をあげたとおもう
あの人は
或いは童貞だったかもしれない
あの人は
たぶん見つかりにくい臓器のがんで死んだ
ぼくはあの人のことを
時々
思い出す
山深い蒼然とした墓地にあの人は葬られた
あの人の人生が
みえてこないので
子供のぼくは
ふれてはならないものが
この世にあることを知った
ぼくは
いまならわかる
あの人は
ぼくだ
そして世界中至る所にいるあの人は
ぼくだ
墓には苔が生えていた
カップ酒と
つまみのピーナッツが供えられていた
あの人の母が持ってきていたのだ
雷滝と呼ばれる滝の音を
遥か下方に聴きながら
少年はあの時から
人生の暗くて深い森へとわけ入ったのだ
それと知らずに
ぼくは
あの人の来世としてぼくを生き
ふたたび死ぬだろうか
暗い森は道半ば
数学をやることは崇敬なことだと
なぜか思い始めている
そして
ぼくはあの人にたいし
不敬である






自由詩 あの人 Copyright 道草次郎 2020-12-22 21:51:19
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