寒波と二日酔い
ただのみきや

生者と死者

安全地帯の植え込みで
ラベンダーは身を縮める
風花の中
一株一株寄り添うように

周囲には細く背の高い
雑草が取り巻いている
枯れ果てた骸骨たち
立ったまま風に笑う





頭痛が歩く

冬空が頭蓋に浸みて来る
血の巡りに冷えた金属が混ざり
りんの音が吸い込まれた消失点から
戻って再び圏を広げるように
膨れ上がり静寂の内壁を
わたしにだけみしみしと





去った後

歩きなれた橋の下
流れを隠す葦の間から
飛び立つ鷺 刹那の目交い
発見 喪失 そして茫然

書く動機も 書いたものも
発見 喪失 ゆえの茫然
ありありとぼやけてゆく
印象は余韻を引き黙ったまま





朝の公園

血袋を羽毛で包み隠して
鳥は翻る
取り立てに鐚一文払わずに
啄むものを探しながら
朝の瞳の中を泳いでいる

建物の影に飲まれて
己の孤独と向き合うこともなく
若木は裸のまま
微睡みの中にいる
内に巡るしめやかな衝動に欹てて

雪化粧したベンチに人影はなく
ベンチ自体がいつも同じ時刻
決まって同じ場所に座る男のように
姿勢を変えずに広場を眺めていた
日向と日陰で区切られた舞台

夜の切れ端がふわりと降り立つ
沈黙の間合い 小首をかしげ
足跡をつけながら日差しへ進み出る
かと思えば扇子のよう
ぱっと開いて朝に歯向かう素振り





ほんの短い時間

男は一本の煙草を吸った
ほんの短い時間だった
男が喫煙所に立っていたのは
吸殻は灰皿へ捨てられて
他と見分けが付かなくなった
ニコチンは男の血液に溶けてはいたが
吸い終わった煙草など
思い出すことはなかった
男の命が尽きるまで
時間にとってはあまりに短かすぎた
河面に降った一粒の雨が
何時とか何処とか言えないように



               《2020年12月20日》








自由詩 寒波と二日酔い Copyright ただのみきや 2020-12-20 15:24:09
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