人間は美しい
花形新次

例えば夏の夕暮れに
線香花火を眺める若い男女は
それだけで美しいので
そのままで固まっていて欲しい
一歩もその枠組みからはみ出すことも
言葉を交わすこともなく
ずっとそのままでいて欲しい

雨のバス停でオレンジ色の傘を差しながら
川端康成のみづうみを読んでいる少女は
濡れた黒髪と白い肌の今が一番輝いているので
そのまま一枚のポートレートになって欲しい

誰にでも最高と言える瞬間がある
だけどほとんどの人がそれに気付かずに
色褪せてくすんで汚ならしく
ショボくれていく

私は人間が嫌いだが
その瞬間のその人だけは
とても愛することが出来る
私が愛した瞬間を描き留めたとき
その人には
瞬間を汚さぬように
消えてもらうことにする

そうすることで
美は永遠となり
私は愛溢れる人となる


自由詩 人間は美しい Copyright 花形新次 2020-12-14 23:29:13
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