人間は美しい
花形新次
例えば夏の夕暮れに
線香花火を眺める若い男女は
それだけで美しいので
そのままで固まっていて欲しい
一歩もその枠組みからはみ出すことも
言葉を交わすこともなく
ずっとそのままでいて欲しい
雨のバス停でオレンジ色の傘を差しながら
川端康成のみづうみを読んでいる少女は
濡れた黒髪と白い肌の今が一番輝いているので
そのまま一枚のポートレートになって欲しい
誰にでも最高と言える瞬間がある
だけどほとんどの人がそれに気付かずに
色褪せてくすんで汚ならしく
ショボくれていく
私は人間が嫌いだが
その瞬間のその人だけは
とても愛することが出来る
私が愛した瞬間を描き留めたとき
その人には
瞬間を汚さぬように
消えてもらうことにする
そうすることで
美は永遠となり
私は愛溢れる人となる