あり得ない現象の中に
こたきひろし
とても大きな都会の、初めて歩いた街の通りで背後から呼び止められた
立ち止まって振り返ると誰もいない
そのかわりに前方は遥か彼方迄海になっていた
波の音が繰り返されてた
彼にとってそれはけしてあり得ない現象ではなかった
だから彼は何の疑いもなく受け入れる
都会の雑踏ばかり歩いていると
いつの間にか取り残されて孤独に蝕まれてしまう自分がいた
彼はその日の目的の道筋を捨ててしまい
今日は一日海を眺めて過ごそうと決めた
海にはいっぱい海風が吹いていた
海鳥が鳴きながら空を飛んでいた
水平線は美しくて漁船らしきものが航行していた
彼は疲れて干からびた魂を砂浜に広げて
海藻みたいに海を呼吸した
すると
そのうちに
彼は無色透明になって
海と同化してしまった