あり得ない現象の中に
こたきひろし

とても大きな都会の、初めて歩いた街の通りで背後から呼び止められた
立ち止まって振り返ると誰もいない
そのかわりに前方は遥か彼方迄海になっていた
波の音が繰り返されてた

彼にとってそれはけしてあり得ない現象ではなかった
だから彼は何の疑いもなく受け入れる
都会の雑踏ばかり歩いていると
いつの間にか取り残されて孤独に蝕まれてしまう自分がいた

彼はその日の目的の道筋を捨ててしまい
今日は一日海を眺めて過ごそうと決めた

海にはいっぱい海風が吹いていた
海鳥が鳴きながら空を飛んでいた
水平線は美しくて漁船らしきものが航行していた

彼は疲れて干からびた魂を砂浜に広げて
海藻みたいに海を呼吸した

すると
そのうちに
彼は無色透明になって
海と同化してしまった


自由詩 あり得ない現象の中に Copyright こたきひろし 2020-12-13 10:02:11
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