12月は8月よりも嫌いだ
月夜乃海花

夏は逃げ水のにおい。
冬は蜃気楼のにおい。

8月、蝉が鳴いてコンクリートの焼けた匂いを思い出す。
12月、雪は落ちて白い水の匂いで鼻が壊れる。

8月、夏期講習だ、テストだ、頑張らないと。点を取らないと殺される。誰かの悲鳴が聞こえた。
12月、模試の判定は、お前はどうしていつもそうなんだ。寒い空に罵声が響く。誰かの心が凍死した。

8月、大学に入学しても夏期講習のにおいがした。大学でも結局テストだ。
それでも自分の好きな勉強が出来たから楽だった。
12月、そういえば来年でもうすぐ研究室に配属する時期だ。研究室で頑張れば賞を取れる。あいつらを見返せる。

8月、教授が急に冷たくなった。最初は優しかったのに。
このままだと社会人にならないなどと繰り返し言われるようになった。
12月、卒論発表が近い。院進学は急遽辞めて上京して職探しすることにした。
今はただ堪えねば。何度もトイレで吐いて泣いた。

8月、大学卒業して東京に来てから、やっと就職が決まった。初めての就職。
少しでも人の役にたちたかった。
12月、気づけば他の先輩達よりも仕事を多く持っていた。会社に期待されている。知ってはいたが少し重かった。

8月、身体を壊した。というよりも周りの期待が重くて、仕事も減らなくて全てが嫌になった。
これで101回目。死にたいと思ったのは。
12月、休職してから久々に雪が降りました。凍ってしまいそうなほど、冷たくて悲しい雪。
父と喧嘩したせいで両親は別居しました。

夏、蝉と蒸し暑さと人の怒りが私の身体を蝕んで。
冬、雪と寒さと人の哀しみが私を刺し殺す!

花はじっと雪に耐え、暑い日は雨が降るまでただただ待つ。

早く春がきますように。
春が来たら桜のように散ることが出来ますように。
そして、誰もいない空中楼閣に叫ぶのだ。

左様ならば、さよなら。


自由詩 12月は8月よりも嫌いだ Copyright 月夜乃海花 2020-12-02 05:19:24
notebook Home 戻る  過去 未来