小さなものたち
道草次郎

小さなものたちを紹介をしよう

かれらはずっと昔からそこにいたようにも見えるし、つい今しがた、現出したようにも見える
目が触った瞬間に彼らは魂を宿すことだろう
目を逸らしたとたん跡形もなくなる
彼らは次のようなもの…

…ホルダーサイズのこけし、絵葉書、貝殻、水時計、コットンにつつまれた乳歯、コンパクトな周期表、パイロットの青ペン、インク壺、ちゃちな分度器、30年前の4つ葉のクローバーの押し花、汁粉の匂いがする消しゴム、クリップ、封の切られてない読み込み専用CD-R、5枚で80kcalのクラッカーの食べかけ、ジンジャーエール、埃を被った火星儀、金属製カーテンレール数本、アダムの尾骶骨という名の謎のフィギア、湯気の立つ紅茶、死んだ猫の髯、公正証書の写し、お煎餅の屑…

小さなものたちの寝息は静かだ
彼らは互いに掛け布団をかけて睡眠を取り合い順番で見張りについている
小さなものたちは自分たちの存在の権利をつよく主張する
自分たちが消失する権利をこそ、彼らは主張し続けているのである



自由詩 小さなものたち Copyright 道草次郎 2020-12-01 12:37:53
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