人宿り
後期

人宿り

もうすぐ僕が降ってくる
はるか高い屋上の
錆びた柵を乗り越えて
西日を浴びた夕刻の
遠い目をした僕が
真っ逆さまに
降ってくるでしょう

僕の僕だけの降人予報
確率は70パーセント
落下する僕に耐え得る
強靭な傘はどこに売っているの?

僕はビルの狭い軒先に
これでもかと背中を
減り込ませて
瞬く心臓に
踊らされて
今か今かと
予報70パーセントを
血走らせた片目で待っている

雷のような
惜別の叫びは聞こえなかった
のどかなカラスの鳴き声が
遠くで聞こえただけだった
一瞬、目の前を掠れた影が覆い
重い低いドラムが一つ
路上に鳴り響いたのを
聞いたような、聞かないような
ツンとした白い耳が僕の両脇で
とんがってた
思わず瞑った片目には
見る見る僕の肉塊から
鮮やかな色彩が溢れ出し
四方に細かな枝を作って
僕の新しい靴先まで
ゆっくり鮮色は辿り着いた
 
やんだなぁ
空を見上げると
綺麗な
晩夏の夕焼け
僕は彼女に会いに
地下鉄へ
足取りを軽くして
舞った
確率は100パーセント


自由詩 人宿り Copyright 後期 2020-11-29 22:24:47
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