ズキズキとココロが痛んで
こたきひろし

ズキズキとココロが痛みだして
ハラハラとナミダがこぼれだしたら

あたりかまわず泣きだしてしまえばいい。

その日は祝日
新規開店間もないイオンモールに家族と一緒に車で出掛けた
五月。ゴールデンウイーク。

二人の娘はまだ幼くて、私より十歳年下の妻も
それなりに子供でした。

店内を家族で見て回り、キッズコーナーで娘たちを遊ばせ
見守るだけの大人は直ぐに飽きてしまいました。
 
母親は遊ぶ子供らに声をかけました。
 ここはつまらないからゲームしに行こう。
だけどつまらないのは大人二人の方で子供らは遊びに夢中でした。
 ここはもういいからゲームで遊ぼうよ
なかば強制的に母親が言ったせいで娘二人はしぶしぶしたがいました。

ゲームコーナーはにぎわっていました。
機械の音や人の歓声がうるさくてお互いの会話が聞き取れづらくなってました。

その時聞き慣れた懐かしい声で名前を呼ばれました。
ひときわ大きな声だったので私は気づきました。
 びっくりしたわ。こんな所でひろしらに会えるなんて。
一番上の姉でした。ゲームコーナーのそばを通りかかって立ち止まった様子でした。
姉は三人で来ていました。息子の嫁とその子供だと紹介されました。
甥っ子の結婚式に呼ばれた時一度会っただけで、お嫁さんに全く記憶はありませんでした。

姉は携帯が鳴ったようでした。電話に出ると一瞬に顔色がかわりました。
 ひろし母さん亡くなったって
と姉は凍りついたような声音で言いました。
 いきなりそれはないだろう。入院はしていたけれど、元気は元気だったのに
と私は呆気に取られて言葉をなくしました

何という奇跡的な偶然が重なったんだろうと私は思いました。
 姉ちゃん直ぐに向かうからひろしらも直ぐに来なよ
と言い残して姉たちはその場から去りました。

私も直ぐに出かけようとしましたが幼い娘たち二人がいやがりだしました。
私は強引に連れて行こうとしましたが、妻が思いもよらない言葉を口にしました。
 子供らがこんなに嫌がるんだからいったん家に帰ろう
そして続けて言いました。子供は家であたしがみてるから、あなた一人で行ってきてよ

ほとんど実家に帰らない私は疎遠の親子関係になってました。
それと言うのも妻が自分の実家を優先し、帰りたがらなかったからでした。
 あんな周りに何もない山のなかになんて行きたくない
と言うのが口癖でした。
やさしさでしか取り繕えない私はいつだって他者に決定権を奪われてしまうか譲ってしまう優柔不断の男でした。
妻の言葉を結果的に飲むしかありませんでした。

それが亡くなった母親に対して一生の負い目にもなっていました。

恥ずかしながら、私は泣くしかくのない男だったのです。



自由詩 ズキズキとココロが痛んで Copyright こたきひろし 2020-11-28 09:33:13
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