本を、泳ぐ。
道草次郎

それは
あずき色の革張りで
しっかりと綴じられており
少し重い

一ページ目の
なめらかな白い砂浜には
控えめな海藻が
いくつか打ち上げられている

完璧な塩のフォントと
滲まない潮騒は
夕凪の大海ひろうみを予感させる

まずは
アトランダムな一かき
世界の清潔な模型が
うつくしくドミノ倒しになる
別の波に揺られる
旅行記のみち
イグアスの滝で途絶えていた
犬かきで海をいなす
引き潮に付随して神がもくずになる
津波をれば
そこには少女の秘密のはこ一つ
みなもの反射は
ハチドリの羽ばたき
荒れ狂う嵐の先にあるのは
ロビンソン不在の無人島かも知れず

しかし
閉じられる時こそ
それは素朴な譜面である

そっと
おく手に素早くはいあがるのは
ヤモリではない
それは
朴訥な
樹木の
ファンタジーだ



自由詩 本を、泳ぐ。 Copyright 道草次郎 2020-11-25 21:23:31
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