眠り姫のシンデレラ
月夜乃海花

「どうか私を起こさないで」
最後に姫は言いました
「夢ではきっとあの人が助けてくれるわ」
姫の周りには沢山のぬいぐるみがいました

白い部屋に響く呼吸音
心拍数がぬいぐるみと仲良く歌い出す
独りで姫は夢を見る
右手に父、左手に母
手を繋いだあの日々を

誰も迎えに来ない病室に
男がぽつりと現れた
「貴方が僕の母ですか」
姫は眠り続けて夢を見る
かつて愛した人はとうの昔に消えたの
そんなことも忘れて眠りにつく

「もう、お別れは近いのでしょうか?」
息子の声は聞こえない
「もう、目を覚さないのですか?」
医者に問うても首を振る

「ねぇ、パパこの人だあれ?」
小さな少女が皺だらけの手に触れる
「パパの大事な人だよ」
「どうして眠ってるの?」
「見つけるのが遅かったんだ」
「じゃあ、起きないの?」

じっと男と少女は眠る姫、老婆を見つめていた
「今日でさよならなの?」
「そうかもしれないね」
「そっか」

少女は姫の横に白い花を
玩具の宝石とごっこ遊びのガラスの靴を
「わたしのたからものあげるね、しあわせになってね」

姫の周りはぬいぐるみと宝石
そしてガラスの靴で華やかになった
「もうお別れだね」
「うん、わかった」

男と少女はその後何も言わずに去って行った
ちょうど零時になりかけた頃
眠り姫は目を覚ました
すると男と少女が車の中で
泣いているのが見えた

眠り姫だったシンデレラ
ガラスの靴を履いて
目の前にある光の階段を登り続ける


自由詩 眠り姫のシンデレラ Copyright 月夜乃海花 2020-11-23 20:13:39
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