一番星・オメガΩ その他
道草次郎

空に、
光るもの。
心がわなわなする。
詩がキラキラしている。まるで星砂のよう。
河原で拾った石は持ち帰ったらおにぎりだった。段々露骨にオゾンの匂いになっていく。
とても慎重に生きていてしまうといつしか饒舌な雀となってしまう。
裏を返して表だと言い張ると、鬼が来て我々を串刺しにする。その様子を見ながら閻魔は、月刊地獄新聞のインタヴューに応じている。
狂ったら正常な大聖堂だ。
神経など古生代に閉じ込めておけばよかった。
隕石がたくさん降りすぎて海水はだから退屈だったんだ。
それと無く、生命は誕生した。
でもまた生命も飽きられてしまった。
ホモ・サピエンスに魂が宿り、菌糸類にも節足動物にもおなじように魂は宿った。宇宙生命(コスモゾーン)で満たされた真空では窒息してしまう。
だから銀河系とアンドロメダ星雲はぶつかり合う約束をした。そうすることでしかほどけない紐があったし、半ばやけくそだったから。
白いテーブルに花瓶を置き、そこに一輪の花をさす。さすればなべて綱要は取り纏められ、あらゆる折衝は合意にいたるのだ。
雲を通り抜ける青空。
石を突き抜ける清流。
人体に膨張する宇宙。
なぜ?という問いは二度目のなぜ?という問いにつき崩され、三度目を待たずにして砂の城に津波のアッパーカット。
大人しい年取った霊長類の眼差しのような空はこの銀河系に一体いくつあるだろうか。
メタンや珪素やウラニウムで出来ていても心というのは虚しく並行進化を辿る。ブラインドウォッチメーカーは歯車や螺をそっくり呑んで金の卵を産み、その卵で目玉焼きを作って朝飯のテーブルに載せる。
進化に方向はなく方向に付随する理性は根源の鉄板で焼かれるスルメだ。
理屈を捏ねて捏ねて捏ねまくりテカテカになった泥団子を宇宙の果ての白かべに思い切り投げつけてやる。飛び散ったのは、ドラゴンや鬼や妖精や国家や形状学や線形力学や統一理論や元素記号やまたぎや呪詛や宵闇や高麗人参や大腸や夕焼け空。

それらが、
無重力星の敬虔な知的生命体に一々回収されていく。
何も
それは
人類でなくてもかわまない。炭素生命体でなくてもいいし、このユニバースでもこの次元でもこの存在理由(レゾンデートル)でなくても全然問題がない。何かがそれをやってくれれば、何かが何かから解き放たれる夢の紐を掴めるかも知れない。

本当の幕引きをする為に百京の帝国の興亡が要るならば銀河はそれすら惜しまないだろう。ほら、南南西の空の彼方、白鳥座の方向にある暗黒星に、今まさに無量大数の栄枯盛衰が途轍もなくデカいブルドーザーから投入されているのが見える。

そう。
それこそが、一番星だ。
















「巨人の黄金の脚」

指で小突く すると
ティッシュの箱が数センチ動く

ふと 気づく
自分が呼吸をしている事に

どうしよう
と 思う

これはたいへんな事だ
と 固唾をのむ

暗闇で
ティッシュの箱が笑っている
神も仏も逃げ出して
ドラマチックなものはみな
井戸に落ちてしまった

取り残されたのは
誰だったか
ひとり広大な場所で体育座りをして
珪素生命体は
孤独にもえている
くれないに

ポッカリと空いた 永遠

宇宙大の惑星の地平線へ
巨人の黄金の脚が
のたうっているのが幻視えた





「冬の焦慮」

横断歩道を
ガラパゴスゾウガメが
悠然と渡ってきて
目の前で卵を三つ
産みおとしていった

ヤシの木にそよぐ
南洋の風と
朝霧のなか出荷を待つ
高原レタスと
18世紀の街はずれの
バスチーユ牢獄と

禾偏も示偏も
にすいもさんずいも
粉々にくだかれ
もう間もなく
クリスマスツリーに飾り付けられていく
きらきら星の歌や
かけあしの三歳児とともに

もうじき来るものを凌ぐために
赤はブルーにみずからを溶かすだろう

頭蓋内のなだらかな丘陵に
陽をもたらすのは
外科手術の他は無いと
あなたは言い切った

情緒やへったくれを
掴んだ子のように日々は走って暮れるから
ぼくはあれから
道に迷ってばかりいる

希望の脚に
まあ湿布は貼るよ
生活のため鍬を振り下ろすとき
木の葉が舞って
一文の値打ちとは何かを
この冬がおしえる事だろう
それが
ぼくには分かる




「インカの碑文」

ねむりたい
ねむりの先にある怠さのことは知っている
そしてその他もろもろの寝てはいられない理由はあるにはあるが
ねむりたい
この一念はどうしたものか
昔何かの本で引用されていた古代インカの碑文に記された詩
それに
こんなようなのがあった

「惰眠を貪る為に我らは生まれたのか/否、ちがう」

インカの文明に文字は無かったような…だから碑文などそもそも…どうだったか曖昧な記憶
もしかしたら偽造された詩句
まあどちらでも

インカの人よ
その言葉を思ったとき
あなたの中であなたはあなた自身にこう問わなかったか
それでも尚
ねむりたい、と

ああ
曖昧な夢の不確かな記憶の
インカの人よ




「次元」

ここに居ることが
立体なら
歩くことは平面で
あなたに逢いに行くともう
ぼくは線にすぎなくなり
そして
何かを口にすると
ポイントになる
あなたを今ここに招いてみたい
でも立体のぼくを見て
あなたが
ぼくを人と認識するか
それは
幾何の惑星へでも
訊いて欲しい


自由詩 一番星・オメガΩ その他 Copyright 道草次郎 2020-11-23 13:33:20
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