椀貸し伝説
もちはる
晩秋の古道を上り
辿り着いたのは
兵火で埋もれた廃寺近く
青い池がひっそりと
木立に囲まれて
残された伝説は
池の竜神さまから
祝いの膳椀を借りた者が
ある時 規範を怠り
きちんと返さなかったので
椀を貸さなくなった と
水面に映る人影は
いつとも知れず
規範を破るかもしれない
透けた水底から
借りたものは
返していますか
異界より見張っている
この世には
自分の物は何一つない
命だって借りている
最期にていねいに返さねば
この先 時代を経ても
褪せてはならぬ色に
染まる畔