去りゆく秋へ
道草次郎
しめったそで口で
動かないまま
秋は静かにながれていった
黄色な落ち葉が
くるんと円弧を描き
たのしく自分を捨てたのがみえた
水にひたされた情念は
真鴨のかき足に
優しくほだされていた
葉を揺らしながら
樫の木は
水辺で微笑んでいた
追想は
追想を置き去りにして
陶然は
陶然の中にいつもさめていた
挙動ばかりが
必然の風景にあって
まるで赤い矢印のようだった
草もみじ
というあまり耳慣れない言葉も
いつからか好きなり
少しずつ老けてゆく自分の顔を鏡に映しては
一番やさしい表情の扉から
少し先の未来を覗き見たりした
雑草たちも
じつはこぞって色付くので
少し慌てたふりをすると
蝶も満足したように飛びさって行った
押し寄せる色鮮やかな感動はいつも
飾らない空とともにあり
冬の足音が近付いてくる頃には
波打つ銀の芒が地平線を
どこまでも
どこまでも
埋め尽くしているだけだった