解離
ひだかたけし

お経が唱え続けられている
畳の広間に敷き詰められた純白の布団に寝ている人達
は皆、死んでいる

お経が唱え続けられている
畳の広間に敷き詰められた純白の布団に起きているのは
私独りだ

お経を唱え続けている
のは、
分厚い頬をした坊主だ
フライの鶏肉を
朝晩むしゃむしゃ食べている

私は離婚して独り暮らしを始めて以来
魚しか食べない
から、
無駄な肉は全部落ちた
けれど、
四歳の時に偶然開けた和式トイレのみなちゃんの白い尻たぶは
余りに鮮烈に眼に飛び込んで来たから
それ以来情慾の火だけは消えない

〈幼女と幼児が毎日繰り返す剥き出し裸体の抱擁愛撫
毎夜の悪夢の恐怖に貫かれたぼくの意識がほどけ
幼い舌と舌を草むらで濃密に絡め合ってるだけで
ぼくの悪夢の自己意識は恍惚と蕩けた〉

いつしか親密な繋がり
は、
断たれてしまった
からこそ、
形骸化した情慾は今
妄念と化し時に荒れ狂う


お経を唱え続けている
分厚い頬晒す坊主たち

純白に光る布団に荒い息をして立ち上がる私は
まるで薄い膜の内に居るようで
意識が魂が未だに肉にうまく嵌め込まれないでいるのを感じる

膜の向こうの世界では雨が降り続け
お経は止まない

鉛の味する遠い意識の散乱







自由詩 解離 Copyright ひだかたけし 2020-11-18 20:06:55
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