東川町の辺り一面畑のライブ
板谷みきょう

軽自動車で
唄い流れていた時
今のような
音響機材一式を
積める軽バンじゃなかったから
寝袋とギターと唄本と
衣装だけで移動していた

一番困るのは寝る時
宿なんかに泊まれないから
知人の家や主催者の家
唄い先で知り合った客の家
そこで
一宿一飯にあずかるのだ

最悪
車中泊になるのだが
体を伸ばせないで眠るのは
結構、辛いものだ

それに冬はきつい
だから唄い歩くのは
雪が溶けてから
降る前までの間に
限定していた

“実りの秋”と言うが
秋口は良いものだ
頂き物が豊かになる

車中泊が続き
一宿一飯にあずかれず
どうしても横になりたくて
バス停留所や廃屋で
寝たこともあったけど…

その頃のこと
東川町の指定された時間に
指定された場所へ到着

謝礼は
前金で渡されたけれども
そこは見渡す限りの畑

農道に丁度、車一台分の
駐車できるスペースがあって
そこが
今回の放歌に指定された場所だった

暫く車の中で待ってはみたが
だーれも来ないし誰も居ない
このまま帰ってしまっても
構わないんじゃないか
でも
謝礼を貰ってるし…

葛藤の後で出た答えは
取り敢えず、約束の時間は
唄うことにしよう

誰も居ない
誰も来ない中

初めまして
板谷みきょうと申します。
お耳汚しではありますが
しばしの間お付き合いください。

周り360度
見回しながら唄い始め
「モンゴルを渡る風」で
喉歌を始めた時に
腰まで伸びた草の中から
プレーリードッグのように
いきなり
ピョコンと畑の彼方此方から
人が立ち上がって
また草に消えたのだ

誰も居ないと思っていたのだが
農作業をしながら
聴いてくれていたのだ

ボクはその時
唄わずに帰らなくて良かったと
心底思ったのだった

※モンゴルを渡る風
https://www.youtube.com/watch?v=ExjoKGMwaqI


自由詩 東川町の辺り一面畑のライブ Copyright 板谷みきょう 2020-11-14 19:59:44
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