柏葉脳神経外科病院
板谷みきょう

一番最初
病院に勤めたのは
脳外科病院だった

院長先生がこれからは
男の看護婦が
手術室で勤務すべきだと
雇ってくれたのだ

男性用の更衣室やトイレも
設置しなければならなかった

付添婦さんが
二十四時間付きっ切りで
世話をしていた

当時は
注射器はガラス製で
注射針は針先を
研いで使っていた

それらの医療機器を
洗浄後に煮沸消毒して
それからカストに入れて
高圧蒸気滅菌器で
殺菌していた

加藤婦長に連れられ
手術室に入った時
山崎さんが開頭術の
直接介助をして
望月さんが
外回りをしていた

望月さんは
副看護婦の資格しか無いけれど
豊富な経験の持ち主で
副看護婦でも准看護婦でも
いずれは正看護婦の資格と
統合されると話していた

橋本さんは
戦争中も看護婦として働いていて
空襲の際は竹槍を持って
患者を守るように訓練していたことを
「飛んでる飛行機に
竹槍で何が出来ると言うのよ。」と
何かにつけ口にしていた

手術室の床は
患者の血液や生理食塩水で濡れていて
ハートモニターと人工呼吸器の音
手術器具のぶつかる音
医師と看護婦の声が充満している

初めて手術室で
開頭手術を見た時
胸が悪くなってしまい
詰所で横になって
パインの缶詰を
食べさせて貰った

柏葉武院長の下で
富永さん石黒さん岡崎さん
山崎君藤崎君と同期で働いた頃


自由詩 柏葉脳神経外科病院 Copyright 板谷みきょう 2020-11-09 04:48:01
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