深夜勤務の時のこと
板谷みきょう
閉鎖病棟が詰所を挟んで二棟ある
重い認知症の老人病棟と
長期入院者の居る慢性期病棟
看護日誌を書き終えて
休憩室で休んでいたら
詰所が騒がしくなった
二名の看護助手が
病棟で老人のオムツ交換を
終えた時間だった
声は聞こえてこないけれど
尋常じゃない物音がしだした
何が有ったのか確認をしなくちゃと
重い腰を上げて休憩室から出て
目にしたのは
慢性病棟に入院中の精神病患者達と
看護助手二名に
其々
覆い被さってる患者だった
レイプ⁈ 頭の中に浮かんだ
何してるのっ!やめなさいっ!!
そう言って
引き離そうと近付いたボクに
他の患者達が
襲い掛かって来た
殺される⁈ 頭の中に浮かんだ
もう必死だった
襲ってくる患者を
制止しようとした
しかし
多勢に無勢で
後ろから羽交い絞めにされ
正面から
股間に膝を入れられ
絶対絶命だった
看護助手達も助けられず
自分は殺されるのか
……嫌だ。
絶対に
嫌だっ!!
……
「てめぇら!ふざけんなー!!」
怒鳴った途端
顔面と股間の痛みが
何故か消えた
興奮状態で
アドレナリンが放出したのか
リミッター解除 限界突破
それからは
目の前に居る患者を
殴り倒し続け
もう誰が誰やら
解らなくなっても
顔さえ見たら殴り倒した
途中で詰所から病室に
逃げる者も居て
静まり返っていた深夜の病棟は
患者たちが目覚めてしまい
騒然となったらしいが
気付いてなかった
…で
ふと見ると
十代半ばから薬物乱用で
警察に保護されて精神病院に
入院していた茂太君が
立っている
彼は今で言う所の
「プライマリ・ナーシング」で
ボクが一貫して
担当していた患者だった
突然怒りが込み上げて
茂太ー!! お前もかー!!
顎に一発。鉄拳制裁。
茂太君は両手で顔を抑え
しゃがみ込み
「僕は、助けに来たのにぃー」と
泣き崩れた
看護助手が立ち上がりながら
犯されそうになったのではなく
腰に繋いである病棟の
施錠扉のチェーンキーを奪おうとして
襲われたことを話してくれた
その後
襲ってきた患者の顔ぶれを
保護室に全員集めて
院長に連絡をした
離院を計画した患者の数は
二十名近くに上って
主犯格の患者は強制退院となり
転院して去っていった
その月の給料は
七万円の報奨金が付加されていた
追加支給されたのは
あの時だけだ