彼は十代が終わりに差し掛かる頃に
こたきひろし

彼は十代が終わりに差し掛かる頃に
初めて
お酒と女性が売りの店に入った

入口の重たげな扉は引いて開けると鈴が鳴る仕掛けになっていた
照明が落とされて暗くなってる店内には
酒の匂いと酒を呑む客達の吸うタバコの匂いが入り混じっていた

接待する女性と
接待される男性客の声が暗い店内を占領していた
換気の行き届かない空気と光を抑制された空間は何処か隠微でそこに湿った黴の匂いのようなものが入り混じっていた

初めて体験する場所に
彼は少なからず緊張し少なからず興奮を覚えながら店内に目を走らせた

いた
彼女を見つけた

昼間見ている彼女は清楚な身なりをして大人しげな雰囲気を身に着けていた
髪の毛を伸ばしていて、それが黒く美しい

なのに
夜に酒場で見た彼女は派手な衣装に身を包んでいた
だけど持っているしなやかな肢体は何も変わらなかった

そのしなやかな肢体に引き寄せられて彼は夜の店に来てしまった

彼と彼女は立場が入れ変わっていた
昼間 彼女は彼の働く小さな洋食屋に週に何度か食べに来る客だった
来るのは決まってランチタイムが終わった後の暇な時間帯だった

小さな洋食屋は二十代半ばの主人とその雇われ人の彼と二人で切り盛りされていた
ランチタイムが終わると二人は交代で休憩に入った
暇な時間帯はほとんど店番をしているようものだった

だからたまに来客があっても一人で応対し料理を作り運ぶ事ができた

彼女は不思議にいつも一人で来客した
普通、女性客は一人での来客を嫌うものだ
大きな店舗ならともかく席数の少ない小さな洋食屋なのだから

若い女性客と店員が二人だけになる店内で彼の気持ちが昂ぶるのは仕方なかった
料理を運び終わると会話したくなってしまった
勿論
最初の頃はその欲求を抑えたのは書くまでもない
会話を客が望まなければ、直ぐに来なくなってしまう事を怖れたし、それがきっかけで悪い評判が立って客足が遠のかないとも限らない

だけど時が経つにつれてお互いの間に自然と会話が生まれて自然に弾むようになった
ある日に
彼女が初めて言ってくれた
 わたしこの先に有るスナックで働いてるの。良かったら飲みに来て?

彼女はけいこと言う名前だった
名字は教えてくれなかった

けいこが彼に気づいてくれた
お絞りを手にとって近寄って来た

着ていた衣装は大きな乳房を強調していた

そこからスタートするかも知れない物語に彼は期待して
震えた


自由詩 彼は十代が終わりに差し掛かる頃に Copyright こたきひろし 2020-11-08 07:59:46
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