帆立貝
もちはる

冷気の下
殻を閉じたまま
ゆらりゆられてどこへ
重なり合う
箱の中

昨日までは
海の底
敵に襲われ
潮に流されても
二枚殻を武器にして
なかまと共に生きてきた
のに

今日は
俎の上
近づく者には
二枚殻で挟んでも
覚悟の身
殻をこじ開けられても
とどめを刺されても
逃げはしない

ここまで運ばれたのは
これまで生きてきたのは
食べられるためだったのか
殻までは食べられまい
ただ北の海を想いうかべる


自由詩 帆立貝 Copyright もちはる 2020-11-06 09:16:45
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