牧師になった彼のことⅡ
板谷みきょう

     死ぬまで泳ぎ続けるしかない魚

     泣きながら泳ぎ続けているけれど

     海の中だからその涙は誰も知らない

それは、いつの頃だったのか。
詳しいことは忘れてしまった。
彼、「きんたろ」の芝居を初めて観たのは
「Mr.グッドバーを羽交い絞め」だったと思う。

数名の役者の協力を得ていたはずが、
結局、誰の出演協力も得られずに、
一人芝居で上演したと記憶している。

白黒フィルムで何者かに追われ、逃げ続ける主人公の
映像の後の登場は、十数人しか入れない狭い会場空間を、
広い空間の延長として錯覚するには十分な演出だった。

今では、その場面しか思い出せない。
内容がどんなだったかも…。

ただ、汗を沢山かきながら、
精一杯、身一つで表現し続ける危うさ。
そこに誤魔化しや嘘がないことは、
一目瞭然だった。

そうだ。

彼とは、札幌の隣町の
江別の劇場兼喫茶
「ドラマシアターども」で
出会ったのだ。

ラジオドラマの脚本で受賞したとかで、
自信に満ち溢れた言動は、謙虚さに欠け、
時に傲慢にも見えたっけ。

当時のボクは、「フォークシンガー」として、
「風変わりなことをして、人の関心を引く」
甘ったれ屋を誤魔化す為に
ギターを弾き唄い叫んでいた。

自分自身を映す社会に
溢れている不誠実さに、
足掻き、藻掻き、苦しみ、
呻き、のたうち回りながら、
身の置き所さえ判らず。

彼もまた、ボクには、そのように見えた。


※牧師になった彼のこと
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自由詩 牧師になった彼のことⅡ Copyright 板谷みきょう 2020-11-03 07:28:24
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