暖房還俗
道草次郎


ただ
暖房をつくった人はえらい
それだけです

強くもなく弱くもない聖者は
やはり
強くもあり弱くもあり
寒い日には
ストーブの前です

ぬくぬくとしないとぬくぬくを忘れるし
さむさむをしないとさむさむを忘れるし
どうにもこうにも
こうして頭の中でかんがえているのも
とてもよいです
よいけれどよくもない
けれどもよいはよいと思い定め
人はさすらいます
さすらわぬ聖者がいましょうか
聖者でない凡夫がいましょうか

どこにどなたがいて
どなたはどこにいないでしょうか
憎しみに満ちた人はとても素直な人
一歩間違えば聖賢の素材です
けれども素直な人だって
そういう海の覇者です

みんながみんな
えらくてそうでなくて
どこに
ほんとうのきざはしがありましょう
月へ月の桃をとるためのです

さようならと
いうことの内べりに
はじめましての溝は彫られていますから
なやまず倦まず
秋は春
春も秋
寝たければねるだけなのです

人事は
風のとぐろの思う儘
とかく暖房の
快さのみが染み入ります

波紋でしか
言えないことをこうして云うことにも
波紋のやわらの皺は
そぞろ寄り
かつ
砕けます

まざまざと
それが見えます
なににか
目に有らざるもの



自由詩 暖房還俗 Copyright 道草次郎 2020-10-30 22:04:31
notebook Home 戻る