銀河硝酸銀
道草次郎


曲芸士が
夜なよな食べるのは
形容動詞のサラダ巻き
ナイフとフォークの
かたかたいう音

燐寸を擦ると
燐光一つ分の銀河が
またひとつしぼみ

地衣類と結託した
カラスノエンドウ
が繁茂する惑星には
語弊のハリケーンが
随時生成され

白んだ夜明けを
かいくぐる骸骨の群れ
動的に静的に
早蕨にクズの花に

(インドネシア天然痘粗忽
シリウス連星不泊
無稽無碍時々刻々

うらをみせおもてをみせてちるもみじ
サウイフモノニワタシハナリタイ
すみれほどなちいさきひとにうまれたし)


ほら奈落はすぐそこだ
枕頭に雷滝
霞がかった蠟石のある祠です
ご覧さんざめく
蒼いセイウチが処々に死んでいる

どこにあるのか花のセシウム
野生の鹿たちの角、角、角
霊抜けした信号機の交差路に
豊かなエコシステムの片鱗
毒に魘されない茸たちの
稠密な新機軸ネットワーク

輪廻の車輪に噛み付く
火蜥蜴の乱舞
リチウムへの
検体
金星の吟遊詩人は
酸の驟雨にうたれ
ハビタブルゾーンの猿達は
やんやと騒ぎ
ジュピターが空の大半を埋め尽くす
イオの風光

(革命家たちの懐に局所麻酔を
それからひとつづりの幼少をとりだし
煮て焼いて蒸して燻して
ピエロの飼い犬にくれてやろうか)


夢想の華の籠城に
つかれてしまったオゾンの卍
さりとて意味もなく
かかる言葉の痙攣微動のうちにこそ…
なにもない
ああなにもない

魚の見る夢
木の見る夢
星の見る夢
石の見る夢
そういうものへ
億万年憧れるも
ヒトの種の天寿は余りにもかほそい


自由詩 銀河硝酸銀 Copyright 道草次郎 2020-10-28 02:46:33
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