終日秋桜寝る子も起こす
ただのみきや
猫
雨色に染まり
濡れそぼつ猫のよう
辻を曲って忘れ物
取りに戻ってそれっきり
溺れるほどにこらえ
秋桜 斜めに見やり
病葉
山葡萄は美しく病み衰えた
雨の日には悲哀
見つめる心に呼応して
詩のように自在に
昼と夜
昼と夜は背中合わせの双生児
隔てる距離も時間も在りはしない
地球は絶えず目覚め絶えず眠っている
光と神が同義だったころ 人は
闇の中へ死や災いの全てを追放した
追いやられた忌むべきものたちは
様々な衣裳仮面をつけて眠り中に現れた
それらは語られ やがて書き留められ
神話や昔話となって再び光に晒された
昼と夜は背中合わせの双生児
追うことも追われることもなく
一つであって交わらず反するようでも結ばれて
貴族的
贅沢病とは言わないが
貴族的とは言える
地球規模で見渡せば
どれほど追い詰められ
悩み 絶望しても
殺される前に死ぬ
生きている内に死を選ぶ
馬鹿にはしない
野の花一輪程の気持ちはある
衝動的であっても
よくよく考えても
精神が肉体に手をかける
なにを守り
なにから逃れたか
命を捨ててまで
褒める気はない
地球規模で見渡せば
貴族的とは言える
贅沢病とは言わないが
園児
園児を眺めていた
希薄な陰影に
冬とは違う人恋しさが
伏せたままの眼差しを
トランプみたいに重ねさせ
戸惑う終止符
儚い雪に踏む日まで
園児を眺めていた
厚着して手を引かれ
遠く さらに遠く
煙
惜し気なく気前よくばら撒いた
会話の切れ端が床で炭化する
時間は足元から焦げ付いて
興味はあらかたガスになり
通気口から逃げ出していた
あの空の雲の厚い連なりと
触れている蜥蜴の冷たい鼻先
頭蓋の中で口琴が鳴り響く
微笑みのオブラードが透け
真っ黒な猿の燻製
忘備録
Ⅰ
詩とは無言劇
言葉はしゃべらない
俳優の身体表現
詩は楽譜ではない
骨董屋に眠る楽器である
あなたの弓を当てるまで
棺とそんなに変わらない
Ⅱ
平面な絵画の中に
遠近があり陰影があり立体がある
――否 無い
あるように見せかけている
暗黙に 対をなす
実体を 真実を
追い求めながらの逃避行
償うように貪る
無垢な邪念で
突き放すように産み落とし
対象化したもの
憎むほど愛して
ままごと遊び
野の草花を盛り付けて
差し出す小さな手の爪は
光に濡れて
稚く
口に含んでみたかった
ままごと遊びの遠い日よ
どこで失くしてしまったか
少女の顔は剥がれ落ち
秋の野山の千切り絵で
菓子箱みたいに包まれて
暗い夢路を運ばれた
手向ける願いの儚さよ
影に日向に追いかけて
瞳の奥に沈めたい
冷たく香る秋の朝
覚めれば萎れた掌に
乗せた白菊そこはかとなく
《2020年10月17日》