深遠
狩心

人は死ぬと強くなる
毎日死ねたら
一体どれほど強くなれるだろう
しかし私たちは毎日死なずに
ほんのりと生きてしまう

酒が回り
目を瞑ると
周囲の音がガンガン響いて
ぐらぐらして
目を開けたら
信号機のお化け屋敷
ドルンドルンとエンジン音が攻め立てて
白黒の橋の上でイキ果ててしまう
グチャ
頭が終わる音
深遠
着地地点は無くて
ただひたすらに落下していく
着地地点が無いのだから
落下ではなく
空を飛んでいるとも言える
手足は全て切り落とされていて
垂直しか存在しない
時間の経過と共に
身体は引き伸ばされて
紐状になり
ちょうど40歳になった頃に
誰にも見えない程の細さになる
無論、
それ以降も引き伸ばしは継続されて
私の内部は全て
外側に飛び出てしまう
何もない空間に浮いた数々のホルモンパーティー
戦士 僧侶 魔法使い 遊び人
全部揃ったところで
魔王切断キングと戦う
攻撃 切断され 回復 切断され
燃やす 切断され ふざけて 切断され
一斉攻撃 切断され
逃走 取り囲まれて
道具 魔王を手なづける
よーしよし よしよしよしよしよしよしよしよしよし
ワンッ
月夜に
脳みそがぶちまけて
犬が遠吠えして
それを食べる
猫が
犬と交尾して
侵食 溶かし 侵食 融合
鳥がそこに落ちて 融合
ビルがそこに倒れて 結合
ありとあらゆる機械が下側にくっ付いて
走り出す
荒野の機関車
ボウボウと燃える瞳
黒いダイヤモンドをぶら下げて
質量は限界MAXまで上げて
私は今宵
無心に
ブラックホールの手下
崖から落ちて
あっ
地面あったんだと
気付いたときには遅く
また
深遠に身を浸す
ブクブクと太り
真っ赤な浴槽の中で目を覚ます
生きているかも分からないのに
死ぬことができるだろうか
まだ死ねない理由がそこにある
そもそも生死など存在しない
分かってはいた
分かってはいたが
何もない場所で
何かがあるはずだと信じている

身体に付着した
水滴を拭う
タオルで
頭をかき乱して
触覚を思い出す
昆虫のような触角が生える
私はまだ変形できる
皮膚を亀の甲羅のように硬くして
顔面の前側の部位を全て削ぎ落とし
のっぺらぼうと穴
のっぺらぼうと穴と空気の循環
のっぺらぼうと穴と空気の循環だけで歩き出す
無論、
遭遇したものは全て結合する
洗脳の名の下に
対話
触れるもの全てが二元論の偽りで満たされているなら深遠
私は若い頃より
少しだけ強くなれたと
思える
私を包み込んでいたあらゆる感覚
痛みや恐怖 不満や喜び
全てをコマンド化して
私の外側に道具
または尻尾や羽として配置
足元から全世界に繋がる気の根は
もはやこの地球または人類に
答えがないことを知らせる
から
私の魂は肉体から飛び出て
宇宙の外側に向かって
一直線に飛んでいく
壁を貫通して深遠
あらゆるものが無に還る
消えていく
私は私を終わらせたかった
死とは違う別の形で

珈琲を片手に
喫茶店で太陽を浴びている
晴れやかな朝だ
妻も傍らにいる
少しだけ微笑んでみる
妻は微笑み返してくれた
答えは分からない
答えは分からないが
私はつくづく人間であると
嫌気がさすほど実感した
私はほんのりと生きている
深遠に

憧れを抱いて


自由詩 深遠 Copyright 狩心 2020-10-14 13:16:21
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