遅いランチタイム
七
ぼやけた眼鏡のひとが
わたしを連れていく
とんかつのお店
ご飯は小盛りで
と言うのでわたしも小盛りにする
遺伝子の特集をとりあげた雑誌をながめる
ばらばらになったいくつかのしるしを
つなぎ合わせて
ひとつのストーリーにするため
知恵を重ねる
いろんな真実が見えてくる
ひとは怪物かもしれない
とんかつは逆
ひとつの塊をばらばらに刻んでいく
何切れ食べても飽きないので
飢えていると思う
言葉では現せないような欲望に駆られていることに
お互い気づいて
ふと目が合う
くちびるの端からしたたる血
ソースだったか
支払いを済ませると
厚いレンズの眼鏡だったひとは
ハンカチで丁寧に眼鏡を拭いて
すこしはにかんで言う
美味しかったですねと
ええほんとに
そしてすたすた歩いていく
ひとりぼっちのように
その影はいびつな怪物にも見えて
とてもうすい
踏まないように
関わりのないほどは離れてしまわないように
とことこついていく