路傍の下、アーケードのタイル張りの床の下、こぼれた炭酸入りのアルコール飲料の下、モグラは朝を待ってい...
竜門勇気


君は言う
私はそれ、嫌いです

爪の中で土の粒が膨らんでくる
十日前に切ったあと
爪があるなんて忘れてた
なんか言った?
なにか聞こえたような気がした
目の前にいる人は
僕になんか言ったみたいだ
なんだかよくわからない

一人でめちゃくちゃに酔っ払って
部屋から外へ出た
覚えてるよ
しっかりしてる
服も着てるし、ズボンにベルトもしてる
雨が降る中傘もさしてないのは変かもしれないが
どうでもいいだろ
あんたが濡れるわけじゃない

私、良くないと思います
それもきっと誰かのものだし

なんだって?何がどうした?
何も盗んじゃいない
何も持っちゃいない
何も持たずに家を出たし
帰るときには少し失って帰る
残りの人生の僅かな時間とかな
ああ、これか?これ、ノビルだよノビル
そこがうちの土地なんだ
帰ったらこれでもう少し呑むんだ
物心ついてから毎日ぶっ倒れるまで飲んでるが
まだ体が壊れねえ
あそこな、荒れ果ててるけど昔は米作ってた
米、知ってる?食ったことないか?

そこ、私が花を植えたんです
パンジーと、チューリップ

何の話なんだよ
僕はいま死ぬほど眠い
なんならもう死んじまってもいい
どっかいけよクソガキ
パンジーとチューリップだって?
趣味が良いな
きっと大人になったら子供に好かれるさ
僕は気が済んだら家に帰る
今日は夜になれば冷えこむっていうぜ
帰れ
二度と姿みせんなよ鬱陶しい

ドロドロとした雲が蠢いているのが見える
歯を立てて爪の間の土をこそいで口の中で押し広げる
奥歯の奥に潜り込む粒子がやたらとでかく感じる
日が僕と対面しゆっくりと逃げていく
街の中一つ二つの家に明かりが灯って雪が降り始める
独り言はお終いだ
泥だらけの草を噛み続ける
寒さで振動する場所が少なくなってくる

君は言った
私はそれ、嫌いです

僕もそんなに好きだったわけじゃない
この場所がパンジーとかチューリップとかが咲くようになればいい
こんな泥臭い草をかじる場所じゃなくて
漫画やテレビドラマで見る場所だったら
こんなもの好きでいなくても良かった



自由詩 路傍の下、アーケードのタイル張りの床の下、こぼれた炭酸入りのアルコール飲料の下、モグラは朝を待ってい... Copyright 竜門勇気 2020-10-09 22:44:35
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