はじまり はじまる
木立 悟
痛みを持たない笑顔から
毒も疫病もない広場へと
脈打つ雫が落ちて来て
紙の上には無い言葉を晒す
今は誰からも忘れ去られた
早死にの国から群れは来て
陽に焼けた影の落ちるさま
夜の水紋の音を聴く
煮えたぎるものほど冷めやすい
異なるものほど共に居られない
そこにはひとつの弦楽器しかない
私はあなたを弾くことができない
ちぎれた曇が水の上をゆく
終わったものらの残り香の夜
街は街に円を描き
白は薄い緑に遠のく
鳥は鳥に訊かなくていい
花瓶にあいた穴に笑む花
誰も何処にも連れ出せないまま
冬は冬として居つづけるのだと
氷を開く手は凍え
光は光に供えられ
水と霧と雪を歩む径
区別を知らない重なりの径
ぼんやりとまた音は枯れた
影とこだまがひとりを彩り
暮れの海から遠去けながら
映らない虹の群れをくぐる
蝶が蝶に触れるとき
宇宙は蒼に立ち並び
かたちは光にこぼれ落ち
波と鼓動を打ち寄せつづける