詩は料理に似ているか
につき

詩は料理に似ているか
自分の食べたい好みでもあり
食べさせたい人へと味を寄せていく
味という共感を持って
食欲という本能に寄り添うこと
それは
詩情という共感を持って
在りようという抗えなさへ
寄り添うことに確かに似ていた

我らは食事を求める
生きるためだけでなく
そこには胃袋をもって
希薄になりそうな
肉体へと回帰する喜びがある
それは
我らが情感を求めて
生きるためにだけでなく
言葉をもって
ともすれば失いそうな
潤いを取り戻す実感に似ている

料理とは風土の香り
食事とは肉体で生きること
海の大地の命の残響を聞くこと
そして
詩とは霧に浮かぶ影
形なき我らの輪郭を確かめる術
そこにあるしみじみとした悲しみ
姿なき我らを吹き抜けていく言葉の残り香

詩はやはり
料理にどこか似ている
しかし
それはむしろ
晴れた十一月初めの正午に漂う
木犀の香りに
秋の支配する大気にこそ似ている

詩には
やはり影と憂いがある
それは
強い光りの下にはなく
どこか肉体を離れていくもの
舌の上にある甘美では決してない

ある日
途方に暮れた路上で
夜の秋風が吹き寄せた
月影には温かみもなく
香りもなく
ただ一層に美しかった


自由詩 詩は料理に似ているか Copyright につき 2020-10-06 22:07:36
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