黄色い蝶
服部 剛
鎌倉の甘味処・無心庵の窓辺で
手の届きそうな垣根の外に
緑の江ノ電は がたっごとっ と通り過ぎ
殻を割ったピスタチオの豆を
口にほおばり、かみしめ
麦酒を一口
また窓外に
江ノ電は通り過ぎ
豆と麦酒を、もう一口
――かつてこの店を友と尋ねた
あの女が病で世を去り、時は流れて
夏の終わりの由比ヶ浜
今日も波は遠くへ
すう…と引いてゆく
ふいに踏み切りが
かんかん、鳴り出だす
ガラスの机に映る空に
夕染めの雲は流れる
いつのまにやら…麦酒に頬は赤らみ
からだを脱いだあの女の
懐かしい笑い声 心に響く
店の外につるされた
「氷」の布は、風にはためき
通りすがりの酔いどれの
目蓋の裏に
黄色い蝶のおもかげが
横切った