不慮の事故
こたきひろし

蛇も菟も蜂の巣も
この異常な気象の中で自然の一部だった

盛夏
畑と畑の間の狭い道で陽炎が揺れていた
いきなり道端の草むらから蛇があらわれて道を横に切り裂いた
占領したまま動かない

先を急いでいた
だけど車から降りて蛇を追い払う勇気はわかない
男は躊躇なく車のアクセル踏んだ

盛夏
物流センターの駐車場の隅の草むらを何かが走り抜けた
凄い速さだった

数日後それが茶色い小うさぎなんだと認識した
何処かの誰かがペットを野に放ったに違いなかった
その後も何度か作業中にあらわれた
男はその事実を自分だけの秘密にして誰にも口外しなかった

20本入りの日本酒の空箱を三つ重ねて置いたら
真ん中の箱に蜂の巣が出来ていた
作業中やたら周囲を蜂が飛ぶので怖かった

蜂の巣があったからだ
見つけて直ぐに事務所に連絡した
そしたら
蜂用の殺虫剤があるから自分で退治してくれの返事だった
男は即座に断った
時給900円なのに
危険に身を晒す程馬鹿じゃない

勿論それをそのまま口にする程阿呆じゃない
上手い言い訳をして断った

九月に入る
猛暑は変わらない

張り詰めた高気圧のお陰で
二つの台風の進路から外れた


自由詩 不慮の事故 Copyright こたきひろし 2020-09-10 00:22:00
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