忘れたことの仲に詩は
道草次郎

忘れたことのなか
あるんだよね
詩は

自動記述というのが流行ったのが百年前なら
意識が流行ったのはいつのことやら
なんなら
アウストラロピテクスの頭蓋骨を
電子レンジに入れてチンしてみようかしらん

朝露をふんだんにまとった芝生のみえる道を
散歩したよ
大事なことを思い出せないなってことを
思い出しながら

ぺんぺん草というのは俗称かな
ああナズナと云うんだ
ナズナがね太く立派になったのが
廃屋の軒先の岩と岩の間から突き出ていた青空にむかって
それから
乾涸びたミミズの死骸を一疋の大蟻が跨いだのも見た

気持ち悪いよね世界
アスファルトにめり込んで半分腐った林檎や
亀裂を隙間なく埋めつくす雑草や
黄ばんだ葡萄の病葉や
その湿っぽい裏なんかも
耐え難いよ
でもそれらがある朝の林道にもやがて昼がきて
ともかく
少なくとも水気をとっていってくれる
人間は
何世代にも亘りこういう地球のやり方に
疑問を挟まなかった所か
そこで
子供を産んで育てもした

べつに何かを言いたいんじゃない
さっき感じたことが
もうまるで
冥王代の事のようにも思えてしまうから
備忘録の字面を
賑やかにしたいだけだ

ツユクサは綺麗だったよ
ルリシジミチョウの真ん中に黄色な妖精が居た
手にとるのがなんとなくこわくて
だから
言葉で掬おうとしたんだけどやんわりと拒否された
その時
これが彼らのやり方
いや
地球のやり方なのかなって思って
なぜか
ぽっかりと安心した





自由詩 忘れたことの仲に詩は Copyright 道草次郎 2020-09-06 10:23:42
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