鈴虫
道草次郎

あの手この手を駆使し
時間にしてほぼ二時間
ぼくは自分がいかにこれまで我慢してきたかを伝える
君は自分もあなたと同じだけ我慢してきたとさらりという
ぼくはこれでもかというくらいほとんど全身全霊でそれを主張したのに
君はあっさりとその主張を退けるんだから
そりゃあもうクタクタで

でも
ぼくは君のそんなところが好きだよ

もしぼくが君なら
相手のことがなんだか気の毒になって
剣を鞘に収めちゃうだろうから
だけど君は剣を構えたまま微動だにしない人だ
それに
疲れてもクタクタだなんて言わないし

こんなぼくにはもったいない
たぶん生きることに全うに向き合うことのできる人
まあ見方によっては君は何もかもめちゃくちゃなんだけど
大事なところはちゃんとおさえてる
ぼくにはそう思える

なぜ君は自分にもっと自信を持たないんだろう
高校の同級生がたまたま担当になったからって
それから松本の街がこわいからって
なんで君がうつむかなきゃならないんだ

ぼくが優しいって?
それはそうかもね
でも優しいってことがどんなことなのか君もよく身にしみただろう
ぼくはね
もう何だかよくわからないよ
これが依存なのか何なのか
よくあるゴタゴタの類なのか何なのか
でも例えそうだとしても
ぼくはじゃあ考えを今から改めて
この世のゴタゴタというゴタゴタを愛すことにしようか

知ってるね?
ぼくはカメレオンだよ
いいカメレオンかは分からないけどいつだって人を煙に巻いては笑わせて
いろんなものを取り込んではあんがいケロッとしちゃうんだから

ごめんね
こんなふうにしかやれないんだ
こんなふうにしか生きられないんだ
たぶんぼく
君にあまえてるんじゃなくて
互いの甘さに
甘えているんだね
君はもうとっくにそれに気付いてて
ぼくの知らないところできっとぼんやりしたりしてるんだ

ごめん
ほんとうにごめん
いつも割を食うのは君だ
はたから見たらぜんぶ割を食ってるのはぼくだけど
本当はいつだって君がえらい
一番えらい

ああ
こういういろんな思いを
世界に溶かしてしまえたらなあ…
ぼくらは
いや少なくともぼくは
もっと批判的にならないとね

さて
お説教はきらいだった
そろそろ寝ようか

君のところでも鈴虫の声は聴こえるの?
ウソでもいい
どうか聴こえると言って
鈴虫の声に取り囲まれた君を想うと
きっと
苦もなく眠りに落ちられる

それが今夜の結論
かな
少し弱いけど

いつも
ありがとう

おやすみなさい



自由詩 鈴虫 Copyright 道草次郎 2020-09-06 00:32:27
notebook Home 戻る