やり切れなさ
道草次郎

どうしたらいいんか分からない
こんなんじゃいけない
思索をしたいけど
そも向いてない
井筒俊彦や西田幾多郎がなんだか憎くくて
ぜんぶ燃やしたい
生活でいっぱいだ
でも今はその生活さえ半分やってないから
ただの穀潰しみたいなもんだ
クソの役にも立たない人間
本が読めない
つらい
14の時から失読症だ
矢部太郎先生の『大家さんと僕』は読めた
えらい先生だなあと思った

妻が妊娠中は
なんでもやった
夜中に帰ってきてセブンに買い出しに行って
それから炊事洗濯をした
なにもかもやった
ぶっこわれた
いや
彼女がいけないんじゃない
ぼくがいけないんだ
でもちゃんとオナニーはしてた
すごくえらい自分…
そんな自分の後ろ姿だけが
心の支え

『論理哲学論考』を読もうとしたけど一瞬で挫折して
マルコムという人が書いたウィトゲンシュタインの回想録を読んだ
いい本だった
その時の思い出だけで
あるいはどこかで見たウィトゲンシュタインの峻厳な肖像だけが
たぶん今の僕を支えている
ウィトゲンシュタインの哲学なんて理解の悪いぼくにはわからない
ただ彼のシルエットに底知れない恋をした
それだけはたしか

ぼくはもう嘘と虚栄で塗り固められてしまった
許してほしい
まず妻に
それから子供に
そして友人に
ぼくはたしかに第二種電気工事士の免状がほしいけど
本音をいえばずっと寝てたい
たまに夜目覚めた時に
コオロギがないていたとしてその声を聴きながら思索にふけるだけでもう充分だ
風にさらわれる塵であったらどれだけ良かったろう
意識の破片なんて散り散りになればいい

どうか喜びをください
ぼくは神も仏も信じないが
祈りたい
魂の実在を疑わない
かなしみをどうにもできずこうしていると
もう何もかも
吸う空気に至るまで
ぜんぶ吐気がする詩集みたいだよ

まいったな
今夜も海月みたいにゆらゆらしてなきゃならないようだ




自由詩 やり切れなさ Copyright 道草次郎 2020-09-01 21:25:06
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