ブルース・ブラザース、日本へゆく第三章 35
ジム・プリマス

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「レイの手紙」

親愛なる友人エルウッド・ブルースへ
                  
 本来なら身内である甥、スピーディーに、託さなければならないことなのだが、この年寄りの最後の願いだと思って、聞き届けてもらいたい。ワシも、もう長くない。人生の終盤を迎えたワシにとって気がかりなのは、ただ一つ、ハーレム少年合唱団の子供たちの行く末だ。
 今度、ハーレム少年合唱団の理事に就任したスチュアートは、鼻持ちならない自惚れ屋で、どうしようもない守銭奴だ。奴は己の保身と金にしか興味がない。あんな奴が、理事長として収まっている間は、ワシは一時でも安心、出来ない。
 これはワシの勘で、これという確証があるわけじゃないが、奴は必ず、近い将来、ろくでもないことを引き起こすに違いない。その時のために、頼んでおきたいことがある。
 もし、理事長のスチュアートがなにかしでかして、ハーレム合唱団が危機を迎えたら、エルウッド、お前さんには、その時に、やってもらいたいことがある。
 エルウッドお前さんには他の男にはない、バイタリティーがある。刑務所送りにはなったものの、生まれ育った孤児院を救うために、あの伝説のデット・ヒートをやってのけたことは、本当にあっぱれだと思う。お前さんはこの年寄りの度肝を見事に引っ込ぬいてくれた。そこんところを見込んで、無茶だと承知した上でお前さんに頼みたい。
 ハーレム合唱団が危機を迎えたら、ワシの名代として、日本へ行き、ワシの古い友人ジョージ・ヤナギと会い、彼の力を借りて、ハーレム合唱団の危機を救ってほしい。
 ジョージ・ヤナギは日本ではかなりのメジャーなブルース・シンガーで、男気があり、ワシがこれだと見込んだ友情に厚い男だ。それに彼はハーレム合唱団を日本に呼んで日本各地でジョイント・コンサートをやった実績がある。
 あの男なら、ハーレム合唱団が危機を迎えているとなれば、必ず力を貸してくれるはずだ。エルウッド、どうかジョージと二人で力を合わせて、ハーレム合唱団を守ってくれ。
 エルウッド、お前さんが長いこと堅気の落ち着いた暮らしをしていることはワシも承知している。こんな手紙がわたったらその暮らしを壊してしまうかも知れん。しかし、こんなことを頼めるのは、ワシにはお前さんしかいない。どうかワシの最後の頼みを聞いてくれ。
 ジョージへの手紙をお前さんに託す。必ず日本に行って、お前さんの手でジョージに渡してくれ。マリアへの手紙はどうにかしてハーレム合唱団の事務局に届けておくれ。
 額面1万ドルの小切手を同封した。この小切手の使い道はエルウッド、お前さんが考えてくれ、お前さんに任せるよ。
                                      レイ



散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第三章 35 Copyright ジム・プリマス 2020-08-30 20:13:47
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