系統樹
宮内緑

鐘の音が夕べを渡る
この頃は少し晩が早まったと
ありふれたことを伝え合うわたしたちに
歳月がつもりつづける
わたしたちがともに埋もれないのは
花を供えるものが必要だから

あけび色の空は夜に沈み
移ろいが蟋蟀たちの一生をせかす
わたしたちもやがて百日紅の花を忘れ
足早に木犀の回廊を過ぎるだろう
わたしの最期をわたしが怖れないのは
見送るものたちがわたしの殆どであるから

夢がやみ憧れがやみ星のぼる
さみしい狢が木群をさ迷い
去った愛を掘り返しては土をはらう
埋葬しなおすたびに星は揺れて
 これは土葬の名残で六角塔婆といいます
 花柄がついているから見分け易いですね
 ――老いた背中たちを追うその眼

道がやみ幸せがやみ星めぐる
あの時もしも――を繰り返しながら
あなたのいない世界に問いつづける
 あなたの記憶はどこに蔵われたのですか
 幸福の思い出たちはどこへゆきますか
 ――七月のあの日の真っ赤な夕焼け

哀惜の土に根ざし大樹は悠久をめざす
天の川に流れる祖先たちの願い
わたしは知っているような気がする
生まれてきた子らのために流し
去りゆく親のために流しつづけた
はかない命たちのさざめき――
風よふけ梢ようたえ星よなけ
あなたの声をどうか聞かせて


            (2017年8月)


自由詩 系統樹 Copyright 宮内緑 2020-08-28 17:21:58
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