病んだ犬は
こたきひろし

その犬は腹に包帯を巻かれていた
包帯は彼の血とその他の体液で汚れていた
犬は包帯の下で傷口が開いているのが想像出来た

朝と言わず日中と言わず夜と言わず
犬は街中を街の周辺をひたすら歩き回っていた

犬が何処から来たのかを私は知らない
犬が何処へ行くかを私は知らない

私は何度か犬がさ迷い歩く姿を見かけたに過ぎない

包帯は飼い主によって巻かれたのか
なのになぜ犬は棲む家を失ったのか
そして傷は何者によって痛められたのか

手がかりは何もない
それを知る必要を私は持ってもいない

私は犬を見て人間を想像した
大都会にはじき出されて行き場を無くし
路上に生活する人達を

私は運よくそうならなかっただけで
明日は分からない

社会とはそんなものだと思う
人間とはそんなものだと思う

ある日の深夜に
犬が一匹
コンビニエンスストアーの駐車場の隅に
うずくまって動かなくなっていた

眠っているのが
死んでいるのか

誰も近づいて確かめたりしない

この世界の
この社会の冷たさとは
そんなものなのだ


自由詩 病んだ犬は Copyright こたきひろし 2020-08-19 01:07:22
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