蓮の池
もちはる
朝の空気に
ほのかに香る
ひときわ白い花
その淵に佇んでいると
葉の茂み深くから
あの 蜘蛛の糸 の話
耳をすましていると
一本の竿が近づき
上からお釈迦様のことば
「悪いことをしていませんか
もしそうなら
地獄へ突き落とします」
見渡せば
葉陰に人がいっぱい
ふるえながら首を振っている
僕も きっぱりと
「していません」
すっと竿が通り過ぎ
そっと見上げれば
お釈迦様の後に
慈悲深い弟子たちが
穏やかに微笑んでつづく
欲のたぎる僕は
きっと突き落とされる
この池は
悪いことも
良いこともせず
運よく危うさを逃れた
ふつうの人だけの
仮の極楽
朝の巡回を終え
穢れない花の香が
舞っている