炎天の下には
こたきひろし
女性には関心のない振りを装っている。
だけど私が勤めている物流センターには沢山の異性が働いているのだ。
その大半はパートタイマーの奥さん連中。勿論男連中もいるがそのほとんども非正規雇用の従業員だ。
社員は数が限られているのだ。
昨今。女性の社員さんが増えている。男よりもその存在感が目立っている。と言うより、女性社員が現場のリーダーシップを取り男性はそれに従っている状況になっていた。
女性社員達がフォークリフトを巧みに運転操作して実に男性の労働力を凌いでいるのだ。
六十五歳。そこは私の再就職の場だった。
おそらく人生最後の職場になるだろう。
定年を理由にされて前職は再雇用を拒否されてしまったんだ。整理解雇と言う名目の紙を一枚渡されて、私は失職した。
それは容赦なく階段から突き落とされたのと一緒だった。
その裏側には若い従業員達からの要望が有ったらしい。年寄りに高い給料を払うならその分を削って自分達の給料を上げてくれと言う。
会社は、先の短い人間よりも若い連中を選んだという訳だ。
そこには私に人望がなく作業能力も低いという根本的な原因が有ったんだけどさ。
理由の如何を問わず私の人生計画は一度に崩壊してしまった。
私には住宅ローンが五年残っていたのだ。
中小企業の僅かな退職金ではどうにもならない残債だったよ。
正社員を失業してから五年目。その間に何度、身を投げて仕舞おうかと思ったか分からない。
現実から逃避したかったんだよな。
だけどさ。嫁さんの母親が死ぬ間際に言われていたんだ。
「娘を頼みます」
そのお願い事に、私は承知したんだよね。
それを支えに踏ん張りながら生きて来たんだよ。
ありがとうお義母さん。貴女の言葉は私を強くしてくれました。
今年の九月に家のローン完済します。
この五年私はけして良い人では有りませんでした。
この五年私は人に言えない汚い方法も使いました。
それでも生きて来たんだよ。
それでも生きて来れたんだ。
女性には関心のない振りを装っています。