歴史
千波 一也


祈りの数と同じだけ
祈らずじまいの人もあろう
頑なに
従順に
知らぬ間に
祈らずじまいの人もあろう

ねえ、言葉が在るのは幸せなことかな
その掌に
この掌に
言葉が在るのは豊かなことかな
誇れることかな
秀でたことかな
確かなことかな

不思議におもえることは幾らでもあるのに
いつからだろう
それを
認めることが恥ずかしくなった
迎えることが煩わしくなった
守ることが恐ろしくなった
いつからだろう
不思議におもえることに
刃を向けるように
なったのは

探し物、とは
こころに忠実に動きまわること
もしくは
知らぬ間に与えられた素敵なプレゼント
この上もなく夢中になれる
情熱のかたまり
「なにを探し物にしようか」なんて
愚行を重ねるばかりの人間が
決められるはずもない

幻という響きが昔から好きで
理由はよくわからない
っていう
諸々の事情や背景が
いかにも幻らしくて
ますます好きだ
幻という響きが
その
包み込むすべてが
大好きだ

祈らないことは罪に値しない
ならば当然祈ることも罪に値しない
その
やわらかな形を
直線が貫こうとするとき
鋭角が突き刺さろうとするとき
つまりは
すこやかならざる何かが囲おうとするとき
祈らぬことは罪になり
祈ることもまた罪になる

だれの支配も干渉も同調も
必要としない世界が
ほんとうだった
図らずも
迷いや孤独や弱弱しさが
ほんとうの世界を支える柱を
少しずつ
変えていったのだろう
ささいな始まりが
時を味方につけて
今では
すっかり大きな柱になったけれど
始まりは
ほんのささいな
生きものらしさだったのだろう

間違え続けることが
命あるものたちの習わしなのだろう
その誤りを
その過ちを
繰り返し続けることも習わしなのだろう
繰り返すまいと抗うことも習わしなのだろう
どちらが優れた生きものかと
競うことも
推し量ることも
天秤にかけてみることも
まったく自然な流れであって
その流れを
一筋に決めてしまおうとして
ほんとうに
一筋にしてしまったことが
習わしを外れた
諸悪の根源では
なかろうか

聴こえるものと聴こえないもののすべてに
この歌を
視えるものと視えないもののすべてに
触れるものと触れないもののすべてに
この歌を
知り得るものと知ること叶わぬもののすべてに
この歌を








自由詩 歴史 Copyright 千波 一也 2020-08-15 16:56:51
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