モノ・クラゲ
吉兆夢

"ドキッ☆聞き役だけの三次会までお疲れ会"は

ケチャッ プたっ ぷりフライ ドポテトで
サザンスター をしずしず あおり
チュッ パチャッ プスを シーソー マシーン
で砕いて 挽いて 敷きつめてゆく

君をずっと 眺めていられる

 ぽこ、ぽこ、ぽこ、
なめされた砂面に穴があるなら
みたい・いれたい・まさぐりタイ!
ところをこらえてお行儀よく
ここにポテトの塩とか入れたら
マテガイなんか出るかもね
なんて 卑猥かw
でもほんとうに
たとえば風に乗ってくる生ゴミくさい磯の匂いや
海鳴りみたいな走行音 
君の傘で揺らめいているエチゼンクラゲのストラップ
さしづめここはモノクロのビルに囲まれ底光りする
コミュ障たちの水槽か
なんつて、
言葉にできない
泡みたいな僕の思考が
シーソー、
 ソーリー、
see-saw、
 でsorry、
水を汲む
ポンプみたいにキィ、キィ、と
夜は明けそうで明けないで
君のこと眺めていたら
アリの釣れない穴ポコから
意外にクラゲの触手とか出てくるかも
しれないね





     *



   

《ばる~ん、》

 ブイではありません。浮き輪でもありません。
 ウォーターバルーンです。
 この夏必須のアクティビティアイテム。
 巨大な風船に乗り込んで水の上を歩くもよし、寝そべるもよし、
 バルーン同士でぶつかり合って白熱バトルを広げるもよし。
 遊び方は自由自在。
 バルーンの防水ジッパーは実際にウエットスーツに使われているものを
 使用していますので水漏れの心配もございません。
 なお、当社のバルーンは安全面を考慮して一台につき一名様のみの
 ご搭乗となっております。あしからずご了承ください。
 大人気・水上アミューズメントスポーツ"ウォーターバルーン"で
 ファミリー、友人、そしてカップルと忘れられない夏の思い出の一ページを
 !
         




     *





ブイではありません
浮き輪でもありません
バルーンです
まず標的をロックオン
水の上をブイブイいわせて
波にかこつけ接近したら
ばる~ん、
と弾き合う
楽しいよ
ばる~ん、
ってとこが
痛いかもね
ちょっとだけ
弾力が大事
傘とは 
ちがうかな
傘は
壊れる
壊れてる?
330円だしね
クラゲは
いいの?
そう
ならもらっとく

ばる~ん、
楽しいよ
くっついたり
ぶつかったり
そのまま離れちゃったりも
あるけどね





     *




    
ゆれないよう
ひとりなみまにゆれている
ときおり
すれちがってゆくうきだまに
ふれることなく
みおくる
きょりで
ゆれて
ゆれる
びにーるのなか
すなをしく いすをおく
ぱらそるのかわりに
まっしろいかさを 
ひらいて かくして そうやって
うすく
うすく
はりつめてゆく





     *





彼岸の帰省を先回りした台風五号に迎えられ
夜明け前のバイパス道路を軽トラックで蛇行する
途中寄ったコンビニのポストは、からん、と乾いた音がしたけど
宛先の滲んだ残暑見舞いはどんなふうに届くのやら
窓を開けて荷台を見やれば
君にもらったコンビニ傘がどうしようもなく裏返されて
ビチャビチャ、バチャ!
剥き出しになった骨組みが
落とした臓器のS.E.を集音するのに忙しい
いわゆるパラボラステッキならば
シアター・タップで華麗にいっそ
歌ってみる、
くらいがいい
高速道路を黄色く照らす
スポットライトの開いた暈から散開していく玉虫達が
おでこに貼りつく髪の先にも/いるし
            /いたし  で
困ったね。
覆いかぶさってた海の匂いに
インクみたいに にじむし、

なんつて





     *





すいへいせん
を つ、
    と つたって
ひびいてしまう
ことがある

うすくて かたい
ぶいだから
おなじような
ぶい
だったから

たがいにふれる
ことのなく 
ひびいてしまった
とおい
こどくに

かさをとじて
ちかづいて
ふれよう
として

ひびわれる





     *





ブイではありません
浮き輪でもありません
バルーンです
まず標的をロックオン
水の上をブイブイいわせて
波にかこつけ接近したら
ばる~ん、
と弾き合う

楽しいよ






ばる~ん、





     *





―残暑見舞いというよりも
 なんてことない、ただの報告です。


思うに僕の乗り込んだのは
PVC素材のバルーンではなく
網掛けロープを抜け出てしまった
ガラス製のブイだったようです。
たぶんあなたもそうだった
気づいているとは思うけど。
あの後ひとりで観に行った
ロードムービーのエンディングは
埠頭で休むカモメをひとひら海の上に浮かべたKate.
その後れ毛からひかりにやかれて
はてしない、や
えいえん、を
モノクロフィルムの膜ごしに
錯視して
、いたかった/からん
でしまったブラインド/エンドロールを乱して/風が
キラキラ透けた高層ビルをやさしく撫でて離れていった
途切れても聞こえてくるから
目を閉じたまま
いたい、ものだね。


内容がないよ~、
なんつて

それではどうかお元気で。






















 P.S.

 あの日連れ帰ってきたエチゼンクラゲはビニル傘の壊れた骨組みにいまでもずっと
 貼りついたまま、雨の日なんかは傘とはいわず玄関先から寝間の方まで潮の匂いを
 忍ばせてきて、生臭い、ビルとビルの隙間にある水槽みたいなあの公園の、夜明け
 の空を海だといった君を思い出すどうやったって君のこと思い出してしまうから、
 こんど帰省した時にでも軽トラックのアオリ止めに傘の取っ手を結い付けて明け方
 前のバイパス道路を窓全開で走りながらカイトを風に放つように、あの空に、海に
 、帰してやろうと思っています。





自由詩 モノ・クラゲ Copyright 吉兆夢 2020-08-15 16:07:57
notebook Home 戻る