愚かさ
道草次郎

こんなにも短時間で
醜くそして優しくなれるぼくたちなんて
もうほんとうに
どうしようもく虚空をさまようようだ
きみは電話のむこうで
また泣いて
けれども君がぼくを思い言ってくれる言葉は
もうぼくには届かない
それどころか
ぼくの中のおどろおどろしい何かを刺激して
自分でもおそろしいほどの
悪意を伴って君へ吹きかける毒としてしまう
そんなみにくい懊悩を
君はかなしんで
もう泣くのもやめてやがて
ぼくのことがほんとうに心配だという
ぼくはそれでもまだ
懊悩と弱さに支配され
君の気持ちを
バキバキと絞め殺してゆく
病んだようだよ
ほんとうにそうさ
ぼくはもう自分を台無しにしてしまう
クズであることを
むしろ喜んで皮肉のリボンで縛って
君にさしだす
死ねと言われた方がまだましだよね
君は苦しめられてしまうぼくによって
この闘いともいえない
醜い蠢きは
いつおわるのだろうと
じっとりと胸元に汗をかいた
すると
やがて君は電話のむこうで
ぼくはソウルメイトだという
ぼくは平板に頷いて
なるほどという
君の声が少しずつ優しくなり
タロット占いと
子供の頃のトラウマの話になったときには
すっかり
落ち着いて穏やかになって
ぼくもそれにともない
穏やかになる
ふたりは
ふわふわと一緒に闇を降りていく
パズーとシータが
そうであったように
飛行石を持たないけれど
ぼくらは
とにかく
底の闇へと
それらすべての一連の出来事は
おおいに愚かで醜くもあり
間違っており
なおかつ滑稽で虚しく
迷妄にとらわれ
犬も食わないのだが
けれども
ぼくらはふたりして互いが
壊れるまでヤリぬきはしなかった
ぼくらは
潮の満ち干きに倣った
おろかであり
みにくくもあっても人は
自然に抗えはしないのだ
よくわからないままに
もちろん結論など持てるはずもなく
ぼくは明日
君のもとへ行くだろう
破綻した感情すら
もはやない
君の病院に連れ添って
たぶん
こどものオムツを替えるため
こんなにも
僅かな時間で
なにもかもがぐちゃぐちゃになったのに
夜は平然とそこに有り
月は皓々と輝いている
ぼくらはいったい何なんだろう
なんで
存在してるんだろう
そんなくたびれた問いかけだけが
荒んだ心の軒先に
ぷらぷらと少し可笑しくぶら下がっていた




自由詩 愚かさ Copyright 道草次郎 2020-08-13 00:31:34
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