原紙
星 ゆり
いちまいの余生に見まがう、あの頬の
夜のふるいにかけられた白き無題よ
こめかみに走る雛鳥、点描にひかりが染みこんだ
その一つひとつはめもりのない朝
捨てられないものを増やした膝を
いつか深く植えるための、
どちらにしろ、すきないのち
牛乳を注ぎ、ひとはだになった路地で
優しさの左右を弁明し続ける
片方を忘れても、正すことのないように
それでもはじめからマス目を数えなおす
思い出の背綿
迂回した日暮れ
わりきれぬ森
ひび割れた胸におちた小さなピアノと
抱擁の水路
あの製紙工場の明るさの向こうでは
どちらにしろ、すきないのちが泣いていた
おまけでついたように笑う孤独が
流砂かアンモナイトになるまで
沈黙とともに
みにくさを訪ねあい、遠くへ行くのだ
とめどない描写で赤らむ空の、いつかに似たことよ
まわり飛ぶあしあとの、軽すぎた天使たち
水のにおいにひきよせられて
ほほえみのまえぶれなど一周した
白昼の陽だまりで
絶えることのない正面を
平らにならされるまで
頬に付記している
弁明した利き手で、筆をとるとする
見まがうほどの目が見つめているものはなに
それが、名を貸すほどのいのちだったとして