散らかった部屋/ADHD
桂
あなたの散らかした部屋が好きだ
無造作に置かれた本や衣類は散りばめられた星のようで
部屋全体の雰囲気は何かとてつもなく大きな可能性を秘めた宇宙のよう
時々マスク姿で掃除に入る私はきっと宇宙飛行士で
窓から入った光の中を無重力で自由になった埃が舞っている
あなたの散らかした部屋が好きだ
あなたの部屋に行くと
時々すごい掘り出し物があって
三年前に一緒に買い物に行った時のレシートなんかが出てくる
レシートに載ってる商品を見ながら
あの日の足取りを二人でああでもない こうでもないと話すのは
新しい化石を発掘した考古学者が頭を突き合わせて議論しているみたいで
私はあなたと過ごすそんな不毛な時間が好きだ
だから私には何故あなたが変わらないといけないと思い込んでいるかがわからない
あなたの散らかった話が好きだ
大好きな野球の話をしていると思ったら
急に哲学的な話になって
最後には自分がどれだけ私のことを愛しているか語りかける
川の上で石飛びするかのように話を展開させながら
最後には私の心に上手く着地してしまう
そんな あなたの少し憎らしい話し方が好きだ
私の話を聞いている時に急に遠い目をする
そんなあなたの望遠鏡のような目が好きだ
あなたの瞳を覗き込めば
私もどこか遠く知らない世界を覗けたような気がするから
天体観測のようなそんな時間が私は好きだ
だから私にはあなたが何故そんな薬を飲まないといけないかがわからない
夢中になると周りが目に入らなくなる
あなたの闘牛のような目が好きだ
赤いマントの代わりにバスタオルを投げつけて
「そろそろお風呂に入りなさい」
とあなたをいさめる私は闘牛士のようで
私はそんなあなたと過ごす情熱的な時間が好きだ
だけど私はアウトボクサーみたいに私と距離を取ろうとするあなたが嫌いだ
私がどれだけ踏み込んでも 後ろにステップバックするそんな卑怯者のあなたが嫌いだ
男なら足を止めて真っ白になるまで打ち合えと思う
「こんな病気を持つ僕はきっと君を幸せにできない」なんてインチキ預言者みたいなことを言うあなたも嫌いだ
私は理数系だからそんな数字で証明できないものは嫌いだ
男が数字とデータで証明できないこと簡単に口にするなと思う
思い返しても腹が立つ
でも「君がいないと生きていけない」と最後に私に泣きついたあなたは大好きだ
私もあなたがいないと生きていけないからだ
お互いの腰に命綱をつけたような私達の関係が大好きだ
私たちはこれからも お互い足を引っ張りあいながらエベレストの頂上を目指すのだ