傘の下に降る雨
こたきひろし
暮らしの貧しさは容易に数字に出来るけど
人の心の貧しさは容易に言葉や文字には括れない
日々の仕事に心底疲れながら
休日にそれを癒せない
そこには命の貧しさが潜んでいるからだろう
平凡でかまわない
それ以上を望んだら
なりふりかまわない生き方しか出来なくなるだろう
が
現実はその平凡さえ手に入れるのは難しい
「次の休みには家族で何処かに出掛けようか」
妻と二人の娘に提案してみた「海 山 川?どこがいい?」
訊いてみた
すると長女が答えた「自然のある所なんかいつでも行けるわよ」と言われてしまった
そんな答えは聞きたくなかった
苛立ちを抑えながら それを極力悟られまいとして
「それじゃ何処へ行きたいんだ?」
父親が静かに尋ねた「巨大ショッピングモールへ行きたいな」と娘は言って同時に妹に無言で同意を促した
自分達の暮らしの貧しさは容易に数字に出来る
父親は返事を躊躇った
父親の顔色を見て長女がすかさず言った
「何処へも行かなくていいよ お金ないんだからさ」
父親は言葉を返せなくなって黙った
「何処へも行かなくて家にいるのがいちばんよ」
と母親が口を挟んだ
暮らしの貧しさに
心までもひもじくなるのはたまらない
それは一つの傘の下に身を寄せあって
傘が役にたたずに
皆が雨にずぶ濡れになって仕舞うような
悲しさとやるせなさを
感じてしまうような思いだった